秋田料理百科

秋田料理百科
きりたんぽ鍋
秋田を代表する郷土料理といえば、やはり「きりたんぽ鍋」。「きりたんぽ」そのものは、炊きたてのご飯をすりこぎで荒くつぶし、香り豊かな秋田杉の串に巻きつけて炭火などでこんがり焼き上げたものでご飯100%。その形が稽古につかう槍「短穂槍(たんぽやり)」に似ており、それを切ったり、ちぎったりして食べることから「きりたんぽ」と名付けられたといわれている。
県外の方は「秋田名物だから」秋田に来ればいつでも食べられると思っているようだが、そこが難しい。最近では1年中提供する飲食店も増えてきているが、地元・秋田の人たちが食べるのは主に秋から冬にかけての寒い季節。この時季が「きりたんぽ鍋」の旬といえるからだ。
9月、新米収穫のニュースが流れると、「そろそろだなあ」と準備が始まる。とにかく、きりたんぽそのものは香りが豊かでなければならない。だから香りのいい新米が必要不可欠。これを秋田杉の串に巻きつけてこんがり焼くと、さらに香ばしさが高まるというわけだ。 
同時に、鍋のだしの味を左右する比内地鶏は寒さでこってりと脂がのってくる。畑ではネギやゴボウも収穫の季節を迎える。山に行けば、キノコのシーズンで、天然のマイタケが手に入れば、もう言うことはない。加えて寒い季節に水田で栽培されるセリは香りも強く、色も鮮やか。秋田では白く長く伸びた根も鍋にいれて一緒にいただく。このセリの根の食感はなかなかのものだ。
「きりたんぽ鍋」の本場といわれる県北部では、稲刈りが終わって忙しさが一段落すると、仲間や友だち同士できりたんぽや鍋、具を持ち寄って川原などで「たんぽ会」が始まる。これは県北部の風物詩になっている。
きりたんぽ鍋
クジラ貝焼き
真夏の暑い日が続くと、どうしても冷たいものやあっさりしたものを食べたくなる。フーフーいいながら食べる鍋料理なんか勘弁してくれという気になるが、秋田県人の場合「クジラ貝焼き」だけは別。アツアツの「クジラ貝焼き」を汗を流しながら食べていると、食欲が増し、何となく元気が出てきそうな気がするという人が多い。もっともクジラといっても使うのは赤身ではなく、脂身を塩蔵したもので「塩クジラ」と呼ばれているものだ。
この秋田の夏の味覚「クジラ貝焼き」に欠かせないのは「ナス」。さらに山菜の「ミズ(ウワバミソウ)」があれば、さらによし。塩クジラとナスの相性の良さから「ナスクジラ」と呼んでいる地域もあるほどだ。
地域や人によって作り方はさまざまだが、基本型値はいたって簡単。ちいさな鍋に半分ほど水を加えて火にかける。沸騰したら細く切った塩クジラとナス、ぶつ切りにしたミズを入れる。これだけでもいいが、甘みを出すために長ネギもしくは玉ネギを入れる人も多い。グツグツ煮えてきたら味噌で味を調えてでき上がり。実に簡単な料理だ。
かつて商業捕鯨が盛んだった頃は塩クジラも安かったが、商業捕鯨が禁止された現在は塩クジラも高級品。最近は高価になった塩クジラに敬意を表し、昆布出しを使ったり酒を加えたりする人も多いようだ。
クジラ貝焼き
ヤツメ貝焼き
ヤツメウナギにはほとんどの魚にある胸びれや腹びれやうろこがない。さらに、えらの代わりに片側7つの孔があり、この孔が目のように見えることから、本当の目を入れると八つ目。そこでヤツメウナギと呼ばれるようになった。ヤツメには早春に産卵する一群と夏に産卵する一群があるが、早春に産卵するために寒くなってから川をさかのぼる一群の方が美味しく、これは寒ヤツメと呼ばれている。秋田ではヤツメといったら、断然、寒ヤツメだ。
ぶつ切りにして串に刺し、塩焼き。ウナギのように開いて蒲焼きなどの料理もあるが、秋田ではなんといっても、味噌で味を調える「ヤツメ貝焼き」が一番人気。
だし汁に味噌に味噌を加えて味を調えてから、最初にぶつ切りのヤツメ。その他の具は人によってさまざまだが、豆腐とネギは不可欠。ささがきゴボウを入れると川魚独特の臭みがとれるからと、ゴボウを入れる人も多いようだ。その他、ハクサイ、シュンギクなどもよし。
秋田流「ヤツメ貝焼き」の場合は、一度にたくさんの具を入れないで、食べ終わったらその都度だし汁や具を入れ、味噌で味を調えながらいただく。
ヤツメを口に入れると、ムチッとした歯ごたえ。骨は軟骨なのでまったく気にならない。寒ヤツメならではのこってりした味。ゴボウを入れて臭みを和らげたといっても、ヤツメ独特の匂い。好きな人は、この例えようのない匂いと歯ごたえがたまらなくいいのだという。
ヤツメ貝焼きヤツメ貝焼き
きゃの汁
かつて、大晦日、正月と忙しく働き続けた女たちが、ほっと一息つけるのは正月十六日、小正月の元旦から。この日から3日間は「女正月」と呼ばれ、女たちは日頃の台所仕事から開放される。この間のおかずが「きゃの汁」だった。
一家族が十人以上という家も多かった時代。大家族が3日間にわたって朝、昼、晩と食べ続ける量は半ぱじゃない。一斗鍋(18リットルも入る)に作ったという話も聞く。
中に入れる具の種類もこれまた半ぱじゃない。家によって具も異なるが、フキ、ヤマウド、ワラビ、サシドリなどの山菜類。これに大根や人参、大豆もしくはささぎ豆、ごぼうなどの野菜類。厚揚げ、こんにゃく。さらにはナラタケなどのキノコ類を入れる家もあったようだ。これらの具を大鍋に入れて煮込み、味噌で味を調えでき上がりとなるが、「超具だくさんの味噌汁」のようなものだ。
塩蔵の山菜類を桶から出して流水にさらし塩出し。それらを細かく切る。雪の下から野菜を掘り出して洗い、切る。量が多いだけに3日もかけて作る家もあったという。3日間休むために普段の台所仕事の合間に3日間もかけて作った「きゃの汁」。
この「きゃの汁」は秋田県内でも主に県中央部から北部にかけて作られていたが、県北部に接する青森県津軽地方では「けの汁」と呼ばれている。
きゃの汁きゃの汁
ヒロッコのカド貝焼き
2月から4月にかけて雪の下から掘り出すヒロッコは、秋田の早春の味。アサツキの一種でネギのような風味が特徴のヒロッコだが、年配の方に食べ方を聞くと、ほとんどの人は真っ先に「カド貝焼き」と答える。
かつて秋田の内陸部で安く買える鮮魚といえば冬のハタハタ、春のカド(ニシン)、夏のイワシ。冬に漬け込んだハタハタが残り少なくなると、春のカドが入る。大半は塩と米ぬかで漬け込んで保存食とするが、残りは焼いたり、カド貝焼きにして食べていたようだ。
脂の乗ったカドをぶつ切りにして、豆腐と一緒にヒロッコをどっさり入れる。ぷつぷつと沸騰してくると、ネギに似たヒロッコ独特の香りとカドの香りが一体となって、なんともいえぬ味になる。ヒロッコの歯ざわりもいい。味噌で味を調える家、ショッツルを使う家、塩を使う家と味付けはさまざまだが、それぞれの美味しさがある。ただ、ヒロッコはあまり火を通さないこと。煮過ぎると独特の歯ざわりが失われてしまうからだ。
冷凍ものや塩ニシンは1年中出回っているが、ヒロッコはせいぜい4月中旬まで。季節感が失われつつある料理の中で、ヒロッコをたっぷり入れた「ヒロッコのカド貝焼き」は、まさに秋田の早春の味といえる。
ヒロッコのカド貝焼きヒロッコのカド貝焼き
納豆汁
納豆汁は昔から各家々で納豆を作っていた頃からの郷土料理。
秋田県の一部では、元旦に食べる「晴れの日」の料理、また冠婚葬祭など大切な日に欠かせない行事食です。
春や秋に採った山菜やキノコの塩蔵、豆腐、油揚げ、芋の子(里芋)などの具を入れた味噌仕立ての汁に、すり鉢ですり潰した納豆を溶かして作ります。
納豆汁は、寒い秋田の冬にぴったりな、身体の芯まで温まる汁物です。
納豆汁